淡水魚と二枚貝について
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タナゴの仲間が二枚貝に産卵することは広く知られている。一方、二枚貝の幼生(グロキディウム幼生)は、一時期ヨシノボリ類を中心とした魚類の体表に寄生する時期がある。つまり、タナゴは二枚貝を「ゆりかご」として利用し、二枚貝は魚類を分布拡大のための移動手段として利用し、お互いに持ちつ持たれつ(共生)の関係を保っているのである。二枚貝は呼吸のために、新鮮な水を入水管から取り入れ、えらを経由して出水管から排出する。この時、水の中から微小な有機物をろ過して食べている。その食性と高水温や酸欠にも弱いため、長期間の飼育はかなり難しい。

飼育下のタナゴ類の繁殖のためには、カネヒラを除いては、むしろ人工授精の方が確実で安心である。県内では、イシガイ科のトンガリササノハ、ドブガイ、マツカサガイ、イシガイのほかにシジミガイ科のマシジミ、ヤマトシジミ等が分布するが、シジミガイ科の貝は産卵の対象にはならない。なお県内では、淡水産の二枚貝を総称してカラスガイと呼ぶことが多いが、本物のカラスガイは分布しないようである。またドブガイについては、従来タガイ、ヌマガイ等という名称が使われてきたが、それらは生育環境の違いによる変異に過ぎず、近年では同一種の「型」として区別されているに過ぎない。

タナゴ類の雌は産卵管をイシガイ科の二枚貝の出水管から挿入し貝の中に産卵する。雄は入水管に放精する。精子は水流によって運ばれ、貝の内部で受精する。卵は種によって異なるが、洋梨型~だ円形でいずれも、クリーム色でもち米ほどの大きさである。温度にもよるが1日から数日でふ化する。ふ化した仔魚は刺激に反応して泳ぐことができる。しかし、眼どころか頭すら完成していない状態であり、脱ぎ捨てられた卵膜がなければ、卵が泳いでいるようにしか見えない。早くふ化して反射的に泳ぐことで、二枚貝のえらのポケット状になった袋(鯉葉腔)にいち早く入り込み、外界へ放出されないための適応であろう。そのために、卵黄の部分には翼状の突起や表面に微小な鱗状の突起も備わっている。ふ化した仔魚は約1カ月あまり、秋に産卵するカネヒラの仔魚にいたっては約半年を、狭いポケットの中で過ごして十分に成長し、卵黄を吸収しつくした頃に貝から泳ぎ出す。

二枚貝に卵を産みつける淡水魚は、タナゴ類のほかにヒガイの仲間が知られている。こちらは、大胆にも産卵も放精も入水管から行われる。卵は2㎜ほどであるが、受精後に吸水して5㎜ほどに膨潤することで外界への放出を免れる。約10日でふ化して貝から泳ぎ出し、2日後には餌をとることができる。また、近くに二枚貝が生息しない場合には石の割れ目などに産卵することがある。タナゴの仲間が二枚貝への依存度が高く、二枚貝なしでは生息できないのに対して、ヒガイの仲間の依存度はさほど高くはない。

ドブガイの出水管からのにおいを嗅ぐニッポンバラタナゴ
ドブガイの出水管からのにおいを嗅ぐニッポンバラタナゴ。雌は腹部から伸びた産卵管を挿入して、卵を二枚貝の中に産みつける
1992.5.5多布施川水系のクリーク(佐賀市)
イシガイの中で生活中のカネヒラの仔魚
イシガイの中で生活中のカネヒラの仔魚
1994.12嘉瀬川水系の水路(久保田町)
ドブガイ イシガイ科

中、下流の流れの弱いところや水通しの良いクリークの砂泥底~泥底に見られる。殻は薄いが、成長すると20cmほどになる。大型のものは、黒色で殻頂部がすり切れて白くなっていることが多いが、小型のものは淡褐色で褐色や緑色の同心円状の模様があり美しい。かつて、タガイ、ヌマガイと呼ばれていたものは、現在ではドブガイのタガイ型、ヌマガイ型とされている。左右の殻の噛み合わせ部に“歯”(一般にちょうつがいと呼ばれる)がない。

ドブガイ(みろくぎゃー)
ドブガイ(みろくぎゃー)
イシガイ イシガイ科

やや流れのある中、下流の砂底に見られる。成長すると6cmになる。殻頂付近には皺のような突起が見られるものが多いが、大型の個体ではすり切れてしまっていることも多い。色はドブガイと同じような変化をするが、黒色のものの中には虹色の光沢をもつ場合もある。

イシガイ
イシガイ
マツカサガイ イシガイ科

やや流れのある中、下流の砂底に見られる。成長すると5cmほどになる。殻頂付近にはイシガイより広い範囲に明瞭な顆粒状の突起が見られ、時として全体におよんでいるものもある。稚貝は淡黄褐色で成長に伴って茶味を増し、黒色へと変化していく。

マサツガイ
マサツガイ
トンガリササノハ イシガイ科

やや流れの強い河川や水路に生息する。成長すると12cmほどになる。琵琶湖にのみ生息するササノハガイの河川型とされる。タナゴ類も利用しないことはないが、あまり好まないようである。

トンガリササノハ
トンガリササノハ
ニッポンバラタナゴの卵(受精直後)
ニッポンバラタナゴの卵(受精直後)
胚発生は盤割(受精後約3時間)
胚発生は盤割(受精後約3時間)
ふ化直後の仔魚(受精後約40時間)
ふ化直後の仔魚(受精後約40時間)
ふ化後約20日目の仔魚この後、卵黄を吸収しつくして、二枚貝から泳ぎ出す
ふ化後約20日目の仔魚この後、卵黄を吸収しつくして、二枚貝から泳ぎ出す
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